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ステファン・ドゥネーヴ(指揮)インタビュー【前編】

2023セイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF)でサイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)の指揮を務めるフランスの気鋭ステファン・ドゥネーヴ。2013年のラヴェルの《スペインの時》でフェスティバル初出演したドゥネーブは、2020年のOMFに出演予定でしたが、同公演は新型コロナウイルスの影響で中止。満を持してのOMF再出演となります。
<Aプログラム>ではプーランク「スターバト・マーテル」とラヴェル「ダフニスとクロエ」第2組曲をメインに据えたプログラムを、<Bプログラム>ではジョン・ウィリアムズとともに《オール・ジョン・ウィリアムズ・プログラム》を指揮します。フェスティバル開幕を前に、2023年6月、香港滞在中のマエストロにリモートインタビューに答えていただきました。前編・後編の2回に分けてお届けします。
インタビュー【後編】

───2013年に続き、10年ぶりにOMFにお迎えできることを大変嬉しく思っています。マエストロは1998年のプーランクのオペラ《カルメル会修道女の対話》で来日し、小澤総監督のアシスタントを務めたそうですが、その時が初めての出会いだったのでしょうか?思い出に残っていることなどお話しいただけますか?

マエストロ小澤との出会いといえば、実は子どもの頃まで遡ります。初めて買ったCDが小澤さん指揮のラヴェルや、プーランクの「グローリア」「スタバート・マーテル」、それからオネゲルの《火刑台上のジャンヌ・ダルク》でした。ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝した小澤さんはフランスでは伝説的な人物で、テレビでも彼が指揮するオペラやオーケストラ公演が頻繁に放映されていました。私が最初にテレビで小澤さんを見たのはマーラーの交響曲第2番《復活》を指揮した時で、たしかジェシー・ノーマンとの共演だったと思います。本当に素晴らしかったのを今でも覚えています。

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1998年のサイトウ・キネン・フェスティバル松本でプーランク:オペラ《カルメル会修道女の対話》で小澤総監督のアシスタントを務めた。リハーサル中の二人を捉えた貴重な写真には、総監督からのドゥネーヴ氏への感謝のメッセージが綴られている。ドゥネーヴ氏曰く、このあと緊張して焦って身を乗り出しすぎてそのまま頭からピットに落ちてしまったそう!

小澤さんはパリでも頻繁に指揮をしていましたが、実際に対面できたのは1998年に松本でプーランクのオペラ《カルメル会修道女の対話》*1でアシスタントを務めたときでした。彼を人間としても音楽家としても尊敬しています。私は彼のおかげで多くを学びました。
《カルメル会修道女の対話》がパリで小澤さんの指揮で上演された際、小澤さんは8公演のうち最後の一公演をやむを得ない事情で指揮することができなかったこともあり、《カルメル会─》の指揮を私にまかせてくれて、おかげでオペラ座デビューできたのです。
この《カルメル会─》のパリ上演期間中に、私の誕生日パーティーにも来てくれたのですよ。友人たちに誕生会に「Seijiが来てくれる」と言っても(若いアシスタントだったこともあり)誰も信じてくれなかったのですが、当日本当に来てくれて大盛り上がりでした。

その後、2013年(*2)に松本でのラヴェルのダブル・ビルで小澤さんがラヴェルの《こどもと魔法》、私がラヴェルの《スペインの時》の指揮を務めました。小澤さんと出会ってから25年。私は51歳ですから、人生の半分以上の年月の知己ということになります。

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───2020年にOMF出演予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で開催中止となり、今回待望の出演となります。オーケストラ コンサート<Aプログラム>では、2020年に予定していたプーランクの「スターバト・マーテル」とラヴェルの「ダフニスとクロエ」を演奏されます。選曲の意図を教えてください。

コンサートは、バーンスタインの「ウェスト・サイド・ストーリー」シンフォニック・ダンスで幕を開けます。
「ウェスト・サイド・ストーリー」はとてもヴィルトゥオーゾな作品です。ですから、コンサートの冒頭でSKOの素晴らしい技巧を示すのに相応しい作品だと考えました。私にとって、これほど素晴らしくレベルの高い音楽家たちと演奏できるのは、大きな特権です。世界や日本各地から集まってきた音楽家それぞれの個性的な才能を保ちながら、アンサンブルとしての音楽、オールスターズ・オーケストラとして輝かせたいと思っています。そうすることで、彼らの人間性や愛を表現できればと。

───ソリストとして、ジョン・ウィリアムズの「チューバ協奏曲」ではチューバ独奏に杉山康人さんを、プーランクの「スターバト・マーテル」ではソプラノ独唱にイザベル・レナードさんを迎えます。

私とヤス(杉山康人)の出会いは1998年の松本でした。その後、新日本フィル、クリーヴランド管でも一緒に演奏しましたが、彼は私が知る限り、チューバからもっとも美しい音を出す偉大な奏者です。才能豊かでとても親切で面白くて、私たちは良き友人です。私が大好きなジョン・ウィリアムズの「チューバ協奏曲」をヤスに演奏してほしいと切に願い、今回引き受けてもらいました。この素晴らしい協奏曲を彼と一緒に演奏できるのをとても嬉しく思っています。

イザベルとは、2013年に松本でラヴェルの《スペインの時》で共演しました。その後も頻繁に共演しており、先月もベルリオーズの《ファウストの劫罰》で一緒でした。ラヴェルの《こどもと魔法》を上演する際は、いつも彼女とです。感受性が豊かな洗練された音楽家で、本物の音楽を創ることができるので、今回プーランクの「スターバト・マーテル」で彼女と共演できるのはとても贅沢なことだと思っています。

───プーランクの「スターバト・マーテル」とラヴェルの「ダフニスとクロエ」では、100名規模の合唱団(OMF合唱団、東京オペラシンガーズ)と共演します。

上質な音楽と、そして我々のマエストロ 小澤征爾の名を冠することで知られるこのフェスティバルにおける、今回のコンサートは私にとって大きな祝祭です。コロナ禍を経て、こうして大人数でコンサートを行えることは普通の出来事だとはもはや思いません。コロナ以後、私は指揮するたびに、大オーケストラと大合唱でたくさんの人が身を寄せ合って音楽を奏でることに感謝しています。音楽を表現するのに、すぐそばに人がいるというのは、一時期はありえないことでした。ですので、今回の共演は本当に素晴らしいことだと思っています。

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インタビュー収録:2023年6月
聞き手:OMF広報
写真提供:ステファン・ドゥネーヴ
Photos courtesy of Mo. Stéphane Denève

*1:1998年SKF プーランク:オペラ《カルメル会修道女の対話》
9月3日、5日、7日 長野県松本文化会館
【プーランク生誕100年(1999年)を記念しての国立パリ・オペラ座との共同制作】
指揮:小澤征爾
演出:フランチェスカ・ザンベロ
ド・ラ・フォルス侯爵の娘ブランシュ:パトリシア・ラセット
ド・クロワッシー婦人、カルメル会院長:フェリシティー・パーマー
受肉のマリー上級修道女:デイム・ジョセフィン・バーストウ
リドワーヌ婦人、新院長:クリスティン・ゴーキー
聖人ドゥニのコンスタンス修道女:マリー・デヴェレロー
マルチド修道女:ベス・クレイトン
幼いイエズスのジャンヌ上級修道女:シーラ・ナドラー
侯爵の息子・騎士:ウィリアム・バーデン
ド・ラ・フォルス侯爵:ビクター・ブラウン 他

*2:2013年SKF ラヴェル:オペラ《こどもと魔法》/《スペインの時》
8月23日、25日、28日、31日 まつもと市民芸術館 主ホール
オペラ《こどもと魔法》
指揮:小澤征爾
演出:ロラン・ペリー
こども:イザベル・レナード
肘掛椅子/木:ポール・ガイ
母親/中国茶碗/とんぼ:イヴォンヌ・ネフ
火/お姫様/うぐいす:アナ・クリスティ
雌猫/りす:マリー・ルノルマン
大時計/雄猫:エリオット・マドア
小さな老人/雨蛙/ティーポット:ジャン=ポール・フーシェクール
安楽椅子/こうもり:藤谷佳奈枝

オペラ《スペインの時》
指揮:ステファン・ドゥネーヴ
演出:ロラン・ペリー
コンセプシオン(時計屋の女房):イザベル・レナード
ラミロ(ロバ引き):エリオット・マドア
トルケマダ(時計屋):ジャン=ポール・フーシェクール
ゴンザルヴ:(詩人気取りの学生)デイビッド・ポーティロ
ドン・イニーゴ・ゴメス(銀行家):ポール・ガイ

関連公演

オーケストラ コンサート Aプログラム

2023年8月25日(金)、27日(日) キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
演奏:サイトウ・キネン・オーケストラ
指揮:ステファン・ドゥネーヴ

オーケストラ コンサート Bプログラム

2023年9月2日(土) キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
演奏:サイトウ・キネン・オーケストラ
指揮:ジョン・ウィリアムズ、ステファン・ドゥネーヴ